4. 腎臓あれこれ(コラム)

腎臓病の薬を飲んでいる女性

慢性腎臓病(CKD)でよく使用される代表的な薬

2024/10/02

慢性腎臓病(CKD)は、主に高血圧や糖尿病などの生活習慣病が原因となり、腎機能が徐々に低下していく進行性の病気です。適切な治療を受けなければ、最終的に腎不全に至り、透析や腎移植が必要となる可能性もありますので、早期発見と早期治療が重要となります。そんなCKDの治療には、生活習慣の改善とともに薬物療法が重要な役割を果たしています。そこで今回は、CKDの薬物療法(薬を使用する治療)について詳しく解説します。CKDに使用される薬の種類や特徴など、CKDの薬物治療についてわかりやすく紹介していきます。またこのコラムで紹介する薬は一例になります。薬を服用する際は必ず医師の指示に従ってください。

参考:エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2018(日本腎臓学会)

CKDの治療目標

CKDの治療目標は、腎機能の低下を遅らせ、合併症を予防し、患者さんの生活の質を向上させることです。薬物療法においては、治療目標を明確にすることが非常に重要であり、CKDの治療でも同様です。血圧の管理、血糖値のコントロール、CKDによって出現する各種症状への対応などが、CKDの薬物療法の基本となります。ダメージを受けた腎臓の細胞を回復させるというような治療ではなく、「これ以上腎臓に負担をかけないようにする」という治療が基本となります。そのため、腎機能の低下をできるだけ早期に発見し、早期に治療を開始することが非常に重要です。

薬物療法の役割

薬物療法は、CKDの進行を遅らせ、症状を緩和するために重要となります。降圧薬(血圧を下げる薬)や血糖降下薬(糖尿病の薬)、利尿薬など、さまざまな薬が使用されます。これらの薬物は、血圧や血糖値を適切に管理し、腎臓にかかる負担を軽減します。また、貧血治療薬やリン吸着薬、カリウム排泄促進薬など、腎臓機能の低下に伴う合併症への対応としても、薬物療法が力を発揮します。

血圧・血糖値・症状の管理が重要

CKDの治療では、血圧と血糖値の管理が特に重要です。高血圧は腎臓に大きな負担をかけるため、降圧薬を使用して血圧を適切にコントロールする必要があります。また、降圧薬の中には、腎臓を保護する効果を持つものもありますので、それらを優先的に使用していくケースが多いです。また、糖尿病が原因でCKDを発症している場合、血糖値を安定させることが重要です。血糖値のコントロールを行い、糖尿病の状態を安定させることが、腎臓の機能低下を防ぐための有効な手段となります。さらに、その他の症状の管理として、むくみや貧血、かゆみなどの症状を緩和するための治療も行われます。

慢性腎臓病(CKD)でよく使用される薬一覧

ではここからは、実際にCKDでよく使用される薬を詳しくご紹介していきます。

降圧薬(血圧の治療薬)

降圧薬とは、血圧を下げる薬の総称です。降圧薬には血圧をコントロールする効果があるため、高血圧の治療には欠かせない薬です。CKDの患者さんにとって、高血圧は腎機能をさらに悪化させる要因となるため、適切な降圧薬の使用が大切です。特に、降圧薬の中でも、ARB、ACE阻害薬、カルシウム拮抗薬とよばれるタイプの薬がCKDでは重要となりますので、これらの薬について詳しく解説します。

ARB(アンジオテンシンII受容体拮抗薬)

ARB(えーあーるびー)は、アンジオテンシンIIというホルモンの作用を抑えることで血圧を下げる薬です。アンジオテンシンIIは血管を収縮させ、血圧を上昇させる働きがありますが、ARBはこの作用を阻害し、血管を拡張させることで血圧を下げる効果が期待できます。また、ARBには腎保護効果も確認されており、CKDの進行を遅らせる効果も期待されます。そのため、高血圧を合併するCKD患者さんの血圧の治療としては、ARBが第一選択薬(最初に使用する薬)となるケースが多いと考えられます。

代表的なARB

  • アジルサルタン(アジルバ®)
  • オルメサルタン(オルメテック®)
  • テルミサルタン(ミカルディス®)
  • イルベサルタン(アバプロ®)
  • カンデサルタン(ブロプレス®)
  • バルサルタン(ディオバン®)
  • ロサルタン(ニューロタン®)

ACE阻害薬

ACE阻害薬(エース阻害薬)は、アンジオテンシン変換酵素(ACE)を阻害することで、アンジオテンシンIIの生成を抑制する効果を有する薬剤です。ACE阻害薬の作用により、血管が拡張し、血圧の低下が期待できます。ACE阻害薬もARBと同様に腎保護効果が確認されており、CKDの進行を抑えるために広く使用されています。ACE阻害薬はアンジオテンシンIIの生成を抑制し、ARBはアンジオテンシンIIの働きを阻害するといった、作用機序の違いがあります。

カルシウム拮抗薬

カルシウム拮抗薬は、血管の平滑筋にあるカルシウムチャネルをブロックすることで血管を拡張させ、血圧を下げる薬です。カルシウム拮抗薬は、非常に一般的な高血圧の治療薬であり、多くの方が使用しています。CKDの患者さんに対しては、ARBやACE阻害薬が優先されるケースが多いですが、カルシウム拮抗薬も治療選択肢となります。

糖尿病治療薬(CKD患者に適応するもの)

糖尿病が原因でCKDを発症している患者さんにとって、血糖値のコントロールは非常に重要です。糖尿病治療薬(CKD患者に適応するもの)は、血糖値を適切な範囲に保つために使用される薬の総称であり、実際には様々なタイプの薬が存在します。ここでは、代表的な経口血糖降下薬とインスリンについてわかりやすく解説します。

経口血糖降下薬

経口血糖降下薬は、主に2型糖尿病の患者さんに使用される薬です。これらの薬は、経口血糖降下薬は、主に2型糖尿病の患者さんに使用される薬です。その作用機序は多岐にわたり、血糖値を下げるために、インスリン感受性を向上させたり、インスリン分泌を促進させたり、インクレチン効果を増強するなどの効果があります。メトホルミンやスルホニル尿素薬、DPP-4阻害薬などが代表的な経口血糖降下薬です。CKDの患者さんの場合、腎機能が低下していることもあり、腎機能に応じて適切に減量をするなどの対応が必要になります。特にメトホルミンは腎機能障害がある場合には投与の際に注意が必要です。どの薬剤にも言えることですが、必ず用法用量を守って使用することが重要です。

インスリン

インスリンは、体内で不足しているインスリンを補うことで、血糖値を下げる効果がある注射薬です。注射薬とはいえ、患者さん自身が自分で安全に注射ができるように、「ペン型」のデバイスが使用されています。正確な用量とタイミングを守ることが、効果的な血糖管理に繋がりますので、「いつ」、「何単位(用量)」使用するのかを厳密に守って使用することが重要です。

利尿薬

利尿薬は、尿の排出を促進することで、むくみを軽減し、血圧を下げる効果も期待できます。CKDの患者さんにとって、利尿薬は重要な治療薬のひとつとなります。利尿薬にも様々なタイプがあり、サイアザイド系利尿薬とループ利尿薬、カリウム保持性利尿薬など、患者さんの状態に応じて適切な利尿薬が使用されます。

貧血治療薬

エリスロポエチンは、主に腎臓から分泌され、赤血球の産生に関わるホルモンです。CKDの患者さんは、腎機能の低下によりエリスロポエチンの生成が阻害され、それによって赤血球の産生が抑制されてしまう可能性があり、結果的に貧血がおこりやすくなります。貧血治療薬は、これを補うために使用される薬剤の総称です。

エリスロポエチン製剤

エリスロポエチンは、赤血球生成を促進する役割をしているため、適切にエリスロポエチンを補うことが、腎性貧血(腎機能低下に伴う貧血)を改善するためには重要となります。エリスロポエチン製剤は、腎臓で生成されるホルモンであるエリスロポエチンを外部から補充する薬です。

活性型ビタミンD

活性型ビタミンDは、カルシウムやリンの代謝を調整し、骨の健康を維持するために重要な役割を果たしています。CKDの患者さんでは、腎臓でのビタミンDの活性化が抑制されてしまうため、骨の代謝異常が引き起こされることがあります。活性型ビタミンD製剤は、これを補うために使用されます。適切に活性型ビタミンD製剤を使用することで、CKD患者さんの骨の健康を改善する効果が期待でき、骨折のリスクを減少させることが可能です。

かゆみ(そう痒)の治療

CKDの患者さんは、体内の老廃物が蓄積することで、全身にかゆみ(そう痒)が出現する場合があります。かゆみなどの皮膚疾患は、生活の質(QOL)に与える影響が大きく、かゆみの管理もCKD治療の一環として非常に重要です。

抗アレルギー薬

抗アレルギー薬は、CKD患者さんのかゆみを緩和するために使用されることがあります。抗アレルギー薬の中には、眠気などが出現しやすくなるものもありますので、車の運転などの日常生活にも十分な注意が必要です。また、CKD患者さんの場合、薬物の排泄が遅延し、薬の効果が強く出すぎてしまうことも考えられるため、用法用量を守って、正しく使用することが重要です。

腎機能低下時の薬物療法には注意が必要です

腎機能が低下しているCKD患者さんの場合、使用する薬剤が体内に蓄積しやすくなり、副作用が出現しやすくなってしまう可能性もあります。そのため、投与量の調整や薬剤の選択には細心の注意が必要となりますので、たとえ市販薬などを使用する際であっても、可能な限りかかりつけ医に相談するようにしましょう。また、用法用量を守ることはもちろん、飲み忘れなどにも注意する必要があります。特に糖尿病の治療薬は、一度の飲み忘れや「過剰摂取」が、重大な副作用につながる危険性もあります。十分に注意して使用するようにしましょう。

CKD治療では生活習慣の改善が必須です

今回は、CKD患者さんに使用される薬物療法について詳しく紹介しました。ご紹介したように、CKD治療において薬物療法は非常に重要な意味をもちます。しかし、CKDを治療するには、食事や運動などの生活習慣の改善も必要不可欠です。薬物療法だけではなく、生活習慣の改善なども積極的に取り入れていきましょう。

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