糖尿病性腎症は、糖尿病患者さんにとって重大な合併症のひとつです。高血糖状態によって腎臓がダメージを受け、それによって腎機能が低下した状態が糖尿病性腎症です。そこで本記事では、糖尿病性腎症の基礎知識から症状、診断方法、治療方法、そして日常生活で気を付けるべきポイントまでをわかりやすく解説します。早期発見と適切なケア(治療・予防)が行えるように、糖尿病性腎症について正しい知識を身につけていきましょう。
参考)エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2018(日本腎臓学会): https://cdn.jsn.or.jp/data/CKD2018.pdf
糖尿病性腎症は、長期間にわたって高血糖状態が続く糖尿病の患者さんにおいて、徐々に腎臓の機能が低下していく状態(病態)です。より詳しくは、糖尿病性腎臓病(DKD)とよばれる大きな病態の中に、糖尿病性腎症(DN)という状態があります。
“DKDは典型的な糖尿病性腎症に加え,顕性アルブミン尿を伴わないままGFRが低下する非典型的な糖尿病関連腎疾患を含む概念である.さらに糖尿病合併CKDは,糖尿病と直接関連しない腎疾患(IgA腎症,PKDなど)患者が糖尿病を合併した場合を含む,より広い概念である. -CKD診療ガイドライン2018”
糖尿病患者さんの約30%が腎症(糖尿病性腎症)を発症しているという報告があるように、糖尿病性腎症は、糖尿病の合併症のひとつとして非常に重要な疾患です。また、透析導入患者さんの約40%が、糖尿病性腎症が原因で透析治療が開始されているという報告もあり、糖尿病と腎臓病はきっても切り離せない関係であるといえます。
糖尿病性腎症の主な原因は、高血糖状態が長期間続くことによる血管障害が基本となります。高血糖状態が続くと、腎臓の細かい血管が傷つき、ろ過機能が低下します。※細い血管が多く、糖尿病で高血糖の状態が長く持続すると、小さな血管を傷めつけ血管が詰まったり破れたりするため血管がダメージを受け続けた結果、腎臓に存在する「糸球体」とよばれる部分の構造が変化してしまうため、結果的に腎臓の機能が悪化していきます。
糖尿病による高血糖状態が継続することで、組織のたんぱく質に血液中のブドウ糖が結合した物質が増加し、この物質が全身の細い血管にに負荷をかけることになります。この状態を「糖尿病性細小血管症」と呼ぶこともあります。腎臓(特に糸球体)には微細な血管が集約しているため、糖尿病性細小血管症の影響が大きくなりやすいというのも、糖尿病性腎症が糖尿病の重大な合併症のひとつとして考えられる理由です。
ここからは、糖尿病性腎症の症状を詳しく解説していきます。糖尿病そのものも、糖尿病性腎症も、「初期には自覚症状が出現しにくい」という特徴がありますので、早期発見のポイントなども合わせてご紹介します。
糖尿病性腎症の初期段階では、自覚症状はありません。症状がないからこそ見過ごされてしまう場合もありますので、定期的な検査を受けることが非常に重要です。自覚症状がなくても、尿検査を行うと、「微量アルブミン尿」が検出されることがあります。微量アルブミン尿(尿中アルブミン)は、腎臓が微量のタンパク質を尿中に漏出させてしまっている状態を示しており、これが腎機能の低下のサインとなります。だからこそ、症状がなくても定期的な尿検査を行い、微量アルブミン尿の有無をチェックしていくことが重要となります。特に、血糖値のコントロールが悪い糖尿病の患者さんや、糖尿病性網膜症などの合併症を発症している患者さんは、糖尿病性腎症のリスクも高くなりやすいため、医師の指示を守って頻回にフォローアップすることが大切です。
病状が進行すると、むくみ(浮腫)や食欲不振などの症状が出現するようになります。尿の色素や量などにも変化が生じることもあり、この状態の方はすぐにでも治療が必要になります。腎臓への治療はもちろん、糖尿病そのものへの治療も重要です。さらに症状が進行すると、腎臓の機能が著しく低下し、尿毒症と呼ばれる状態が出現する可能性もあります。尿毒症状態になると、体内の老廃物が排出されず、全身に様々な症状が出現するようになります。体内の水分バランスも乱れやすくなりますので、血糖値への影響も懸念されます。
糖尿病性腎症を診断するためには、血液検査や尿検査で腎機能・GFR(eGFR)、Alb(アルブミン)・クレアチニンなどを確認する必要があります。
血液検査では、腎機能を評価するために血清クレアチニン値や尿素窒素(BUN)のチェックなどが行われます。血糖値やHbA1c(ヘモグロビンA1c)の測定も合わせて実施しながら、腎機能低下の原因となっている糖尿病の検査も行ないます。尿検査では、尿中のアルブミンやタンパク質、血液の有無などを測定します。また、他の疾患の影響などを考慮して(腎臓そのものの状態を確認するため)、必要に応じてエコーやMRIなどの画像検査を行う場合もあります。
いずれにせよ、糖尿病性腎症(糖尿病含め)は、症状が出にくい疾患のひとつです。症状が出てから検査を行うのではなく、検査をして腎機能の低下を早期に発見し、機能低下を未然に防いでいくような対策が重要となります。
糖尿病性腎症を治療するためには、糖尿病そのものへのアプローチが重要となります。血糖のコントロールをしながら、腎機能低下を予防していくような治療が基本となります。また、腎機能低下によって生じる各種症状(浮腫や悪心など)への対応も必要です。
糖尿病性腎症の治療方法として、以下のような項目に分けて解説します。
糖尿病性腎症の治療としては、糖尿病治療、すなわち「血糖値を適切にコントロールすること」が基本となります。適切な糖尿病治療を行い、血糖値を目標範囲内に保つことが重要となります。血糖値をコントロールしていくような適切な糖尿病治療を行うことで、高血糖状態に伴う血管障害を防止し、腎機能低下を防ぐことが可能になります。また、高血圧の管理も重要であり、主にアンジオテンシン系の降圧薬(ACE阻害薬やARBなど)が使用されます。これらの薬は、血圧を下げるだけでなく、腎臓の保護効果も確認されていますので、腎臓を保護しながら血圧のコントロールをすることができます。
腎機能が低下している方においては、薬物の代謝や排泄を正常通り行うことが難しくなる場合も少なくありません。特に、糖尿病性腎症を発症している患者さんの場合、ご高齢になり糖尿病治療薬や高血圧薬など、複数の薬剤を服用している「ポリファーマシー」状態になっているケースもあり、薬剤の血中濃度が上がりすぎている可能性もあります。糖尿病性腎症の患者さんにおいては、腎機能低下によって、薬剤の副作用やリスクが増加する可能性も考慮に入れながら、適切な薬物治療を実施する必要があります。
血糖コントロールのためには、食事療法、運動療法、薬物療法を組み合わせて行うことが重要です。薬だけで血糖値を下げるのではなく、食事や運動などの生活習慣を見直すことで、より安定した血糖コントロールを目標とします。血糖値は安定させることが重要であり、ただやみくもに「下げれば良い」というものではありません。血糖値を安定させることができれば、血管のダメージも減らすことができ、結果的に腎機能低下を抑制することにも繋がります。
糖尿病性腎症を予防するためには、日常生活(生活習慣)の見直しが非常に重要です。食事や運動だけではなく、ストレスの管理や禁煙などを含め、より総合的な日々の生活の見直しを行ないましょう。
まず、バランスの取れた食事を心掛けることが大切であり、塩分、タンパク質、糖分の摂取量を適切に管理し、医師や栄養士の指導のもとで食生活の改善を行う必要があります。糖尿病性腎症の進行を抑制するためには、塩分制限やタンパク制限など、一般的な腎臓病の食生活の注意点だけではなく、血糖値の上昇を抑えるような食生活も重要になります。
適度な運動を日常生活に取り入れることも大切です。ウォーキングやジョギングなどの有酸素運動を意識的に行うことで、血糖値や血圧のコントロールにも効果的です。しかし、運動をする際には、腎臓の負担になりすぎないように注意する必要がありますので、必ず医師に相談の上で、運動強度を決めるようにしましょう。
糖尿病性腎症の予防(治療)のためには、ストレス管理も非常に重要です。趣味の時間や十分な休息を取り、ストレスを減らすような生活習慣を心がけましょう。睡眠不足や過労などに心当たりがあるという方は、できる範囲から少しずつストレス緩和の習慣を取り入れていくのがおすすめです。また、喫煙や飲酒などにも注意が必要です。喫煙は血管を収縮させ、腎臓に負担をかけるため、禁煙することが強く推奨されます。
糖尿病性腎症は、早期に発見し、適切な対策を講じることで、その進行を抑えることができます。しかし、初期症状がないため、気がついた時には病状が進行しているという方も少なくありません。定期的な健康診断や尿検査、血液検査を受けることで、早期に腎機能低下を発見できるようにしましょう。また、そもそもの原因である、糖尿病や血糖値のコントロールは必須になります。処方薬を正しく使用することはもちろん、できる範囲から、少しずつ食生活や運動習慣などを見直していきましょう。糖尿病の治療を正しく行い、糖尿病性腎症の発症を未然に防止できるような取り組みが重要です。