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コラム

腎臓病の原因は?腎臓病予防のための生活習慣とは

監修

東京都済生会中央病院 腎臓内科 医長

小松 素明先生
2024/6/18

腎臓病(特に慢性腎臓病)は初期症状がなく、気がついた時には症状が進行している可能性のある、注意すべき疾患のひとつです。

そこで本記事では、腎臓病の原因やリスク因子となる生活習慣や、腎臓病予防のために心がけるべき具体的な方法を、分かりやすく解説します。

腎臓病の原因が知りたいという方や、腎臓病について詳しい知識を学びたいという方は、ぜひ最後までご覧下さい。

1. そもそも腎臓病とは?

腎臓病は、腎臓の機能に何らかの異常が起こり、腎機能が低下することに起因する、様々な全身症状が出現する病気(疾患)の総称です。

腎臓病には様々な種類があり、急性腎炎や腎盂腎炎などの「急性腎障害」の他、長期間にわたって腎機能が徐々に低下していく、慢性腎臓病(CKD)とよばれる病態も存在します。

CKDを発症すると、高血圧や貧血、骨粗鬆症などの合併症も生じやすくなり、生活の質(QOL)が著しく低下する要因となります。

腎臓は、私たちの体内で、血液を浄化(ろ過)して、余分な水分や老廃物を尿として排出するような役割を担っています。

この過程で、体内の水分量や電解質(ナトリウムなど)のバランスを調整したり、血圧の調節や赤血球の生成を促すホルモンの分泌も行われています。

そのため、腎機能に障害が起こることで、腎臓や尿だけではなく、全身に多様な症状が出現するようになるのです。

そんな腎臓病を予防・治療するためには、腎機能低下の早期発見と適切な管理だけではなく、生活習慣の改善が非常に大切になります。

日々の生活習慣を見直し、改善を行うことで、腎機能低下の進行を抑制することも不可能ではありません。

2. 腎臓の機能と役割

腎臓は、腰のあたりに左右ひとつずつ(合計2つ)存在する、握りこぶし程度の大きさの臓器であり、私たちの体内で非常に重要な役割を担っています。

代表的な腎臓の機能としては、体内の血液を浄化(ろ過)し、余分な水分や老廃物を尿として排出することです。

この機能によって、体内の水分や電解質のバランスを調整することができ、身体機能を維持することが可能になります。

逆にいうと、腎機能が低下することで、体内の水分バランスが崩れ、極端なむくみや全身の浮腫、それに伴う心臓への負担増加など、全身に様々な悪影響が出現する可能性があります。

また、腎臓は血圧を調節するホルモンを分泌したり、赤血球の生成を促進するエリスロポエチンを産生したり、骨を強くするために必要なビタミンDの活性化にも関与しています。

そのため、腎機能の低下によって、血圧のコントロールに乱れが生じたり、腎性貧血とよばれる貧血症状が出現しやすくなったり、骨折しやすくなったりします。

腎臓には、このような多種多様な機能や役割があり、私たちの全身の健康を支える重要な臓器(器官)のひとつといえます。

3. 腎臓病の種類

腎臓病にはいくつかの種類があり、大きく分けて、急性腎障害と慢性腎臓病に分類することができます。

急性腎障害には、脱水や低血圧を原因とした腎前性、薬剤や何らかの炎症で腎臓自体がダメージを受ける腎性、前立腺肥大などで尿が出せなくなることによる腎後性などがあります。

腎性の原因の一つである急性腎盂腎炎は急激に進行する腎臓の炎症性疾患であり、感染症(細菌感染)が主な原因となります。

急性腎盂腎炎になると、排尿時痛、などの症状に加え、発熱、全身倦怠感などの全身症状、腰や背中の痛み、悪心、嘔吐などの各種症状を認めることもあります。また、細菌が腎臓から血液に入ってしまい、全身へ広がった場合、命にかかわることがあります。一時的に腎機能が急激に低下するため、各種症状に対する対症療法を行いつつ、適切な抗生物質治療(抗菌薬治療)を実施するなど、原因となる感染症への治療も必要になります。

一方、慢性腎臓病は、ゆっくりと長期間をかけて、じわじわと腎機能が低下していくような疾患です。

症状に気がつかないうちに徐々に進行していき、最終的には腎不全などの状態にもなってしまう可能性がある疾患です。

慢性腎臓病 (Chronic Kidney Disease: CKD) とは?

CKD(慢性腎臓病)は、腎臓の機能が長期にわたり徐々に悪化する状態を指します。

日本人のCKD 患者数は約1,480 万人と推計されており、計算上、成人の約7〜8人に1人がCKDということになります。

CKDは段階的に進行していくため、適切な治療や管理を行わなければ、末期腎不全に至り、透析療法や腎移植が必要となる可能性もあります。

CKDの進行を防ぐためには、原因となる病気の管理(糖尿病や高血圧の適切なコントロールなど)が大切です。

また、腎機能の低下を早期に見つけ、適切な治療や予防的措置を行うことで、進行を遅らせることが可能です。

また、CKDは、心筋梗塞や脳卒中、心不全などの、重篤な心血管疾患や死亡のリスクを上昇させることも知られており、適切な治療を行うことが非常に重要となります。

参考)日本腎臓学会編.エビデンスに基づく CKD 診療ガイドライン 2023.東京医学社,東京,2023, 6.

4. 腎臓病の主な原因

腎臓病の原因には様々なものがありますが、CKD(慢性腎臓病)の場合、生活習慣や他の生活習慣病が大きく影響していることが知られています。

そのため、腎臓病を予防・治療(進行の抑制)していくためには、根本的な原因である「生活習慣」を見直すことが重要となります。

(1) 腎臓病のリスクとなる食生活

不健康な食生活は腎臓病の大きなリスク要因となります。

特に、過剰な塩分摂取は血圧を上昇させ、これが腎臓に負担をかけることで、腎機能の低下を引き起こしてしまう可能性があります。

また、喫煙やアルコールの過剰摂取も腎臓への直接的な負担になるだけではなく、糖尿病や高血圧といった、腎臓病のリスクを高めるような他の生活習慣病の引き金となる可能性がありますので、食生活はもちろん、喫煙や飲酒のような嗜好品との関わり方も見直すことが重要です。

(2) 生活習慣病が原因となる腎臓病とは?

糖尿病や高血圧などの生活習慣病は、腎臓病の原因疾患となります。

糖尿病の患者さんの場合、高血糖状態が長期間にわたって腎臓の微細な血管を傷つけ、その結果、腎機能が低下しやすくなります。

この状態は「糖尿病性腎症」として知られており、腎臓病の主要な原因というだけではなく、糖尿病の代表的な合併症のひとつと考えられています。

また、高血圧は腎臓の血管に持続的なストレスをかけてしまうため、徐々に腎臓の機能を低下させる要因となります。

高血圧によって腎機能が低下し、腎機能低下によって高血圧が悪化するという悪循環になってしまうケースも少なくありませんので、できるだけ早期から治療を行っていくことが大切です。

腎臓病の発症を防ぐためには、血糖や血圧の管理を徹底することで、腎機能にダメージを与えないようにすることが重要です。

5. 生活習慣が腎機能に及ぼす影響

上記で紹介したように、不健全な食生活や生活習慣の乱れは、腎臓の機能に悪影響を与える可能性があります。

だからこそ、日常生活が腎機能の低下要因のひとつとなることを理解し、より健康的な生活習慣を作っていくことが腎臓病を未然に予防するカギとなります。

食事や運動などの生活習慣と腎臓病の関連を詳しく解説します。

(1) 食生活と腎臓病の関連性

腎臓病を予防するには、適切な食生活が欠かせません。

特に、塩分の過剰な摂取は、血圧を上昇させ、腎臓にストレスを与える原因となります。

また、高タンパク食を摂取しすぎることで、腎臓に負担をかけてしまう可能性がありますので、過度な高タンパク食ダイエットなどを実施する際には、十分な注意が必要です。

(2) 水分摂取量に注意

腎臓の健康を維持するためには、適切な水分摂取が欠かせません。

水分の不足が体に悪影響を及ぼすことはもちろん、一方で過剰な水分摂取が腎臓に負担をかける可能性もあることを知っておくことが重要です。

また、糖尿病による腎機能障害を発症している場合、「喉の乾き」や「口渇」などの症状が出現しやすく、水分摂取量が多くなってしまいがちです。

毎日の水分摂取に注意して、イン・アウトバランス(水分の摂取量と排泄量のバランス)を意識した生活が大切です。

(3)運動不足が腎機能に与える影響

定期的な適度な運動は、腎臓の健康にも良い影響を与えることが知られています。

運動によって体内の代謝が向上し、血圧や血糖値などにもポジティブな影響があるため、腎臓へのストレスを減少させられる可能性があります。

特に、定期的な有酸素運動(歩行、ジョギング、サイクリングなど)には、血圧を下げる(安定させる)効果があり、腎臓への負担軽減が期待できます。

逆に、運動不足は、生活習慣病などの、腎臓病のリスク因子となる状態を引き起こす可能性があります。

※運動プログラムを始める前には、医師に相談して、自分の体調や健康状態に適した運動を行うようにしましょう。

生活習慣が腎臓(腎機能)に与える影響は大きく、CKDは生活習慣病の一種とも考えられています。

だからこそ、腎臓病を予防し、より健康的な生活を送るためには、毎日の生活習慣を見直すことが非常に重要です。

6. 腎臓病予防のための健康管理

腎臓病の予防には、日々の健康管理が極めて重要です。

また、定期的な検査や検診を行うことで、腎機能低下を早期に発見できる可能性がありますので、特に、生活習慣病などの基礎疾患があるという方は、後回しにせず、しっかりと定期検診を実施するようにしましょう。

腎臓病は初期症状がなく、「気だるさや浮腫」などの軽い自覚症状が現れた際は、既に進行している可能性があります。

これは、疲れや風邪などに近い症状であるため、なかなか受診のきっかけとはなりにくいのですが、「長期間続くだるさ」や「尿の変化」など、より腎臓病に特徴的な症状があるという場合には、できるだけ早くかかりつけ医に相談するようにしましょう。

特に、高リスク群(糖尿病や高血圧の患者さん、その家族歴がある方など)は、定期的なフォローアップ検査を怠らないようにしてください。

小松 素明(こまつ もとあき)

役職
東京都済生会中央病院 腎臓内科医長
経歴
平成18年 慶應大学医学部卒
専門医資格
日本内科学会 認定医、日本内科学会 総合内科専門医、日本腎臓学会 専門医・指導医、日本透析医学会 専門医・指導医、日本腹膜透析医学会 認定医、腎代替療法専門指導士
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